ストレスチェック制度いよいよ その1

ずいぶんと間が空いてしまいました。
久しぶりに何か書こうと思うと、話題はやはり最後の記事でも取り上げた
ストレスチェック制度、です。
まずは、制度の中身を具体化する3つの専門検討会による報告書について。
以下は2月に関西労働者安全センターの機関誌に掲載した文章です。
現在は指針、マニュアルも発表されています。
それらの解説も今後取り上げます。


ストレスチェック制度に関する検討会報告書を発表

昨年6月の労働安全衛生法の一部改正で、「心理的な負荷の程度を把握するための検査等」が
義務(従業員数50人未満の事業場については当分の間努力義務)づけられ、
本誌2014年7月号8月号でも紹介した。
新たな制度は、今年2015年12月1日に施行される。
具体的な運用方法は厚生労働省令や指針などで示すこととなっており、制度の詳細を
固めるため、この間3つの専門検討会が急ピッチで行われ、2014年12月17日に
その結果をまとめた「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関する検討会報告書」
(以下、「報告書」という)が発表された
厚生労働省HP:http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000069012.pdf
報告書で改めてあげられている新たな制度の概要は以下のとおりである。
・事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の
厚生労働省令で定める者による心理的負荷の程度を把握するための検査(ストレスチェック
を行わなければならないこと。
・検査結果は、検査を実施した医師などから直接本人に通知され、あらかじめ本人の同意を
得ないで、検査結果を事業者に提供してはならないこと。
・事業者は、検査結果の通知を受けた労働者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する
労働者から申し出があったときは、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導
を行わなければならないこと。
・事業者は、申し出を理由として、不利益な取り扱いをしてはならないこと。
・事業者は、面接指導の結果に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を
聴き、その意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業上の措置を講じなければ
ならないこと。
厚生労働大臣は、事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を
公表すること。
これを具体化するために行われた検討会は、「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」
(7月7日〜9月9日計4回開催)、「ストレスチェックと面接指導の実地方法等に関する検討会」
(10月10日〜12月15日計5回開催)、「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び
不利益取り扱い等に関する検討会」(10月3日〜12月15日計5回開催)の3つだ。
それぞれ1〜2週間置きに会議が開かれるようなハイペースで議論され、議論を事務局側が
まとめたところで12月15日を最終回とし、それぞれの検討会からの意見を集約する形で
17日にこの報告書が公表された。

報道発表において厚生労働省は報告書のポイントとして以下の点をあげた。

1 ストレスチェックの実施について
○ ストレスチェックの実施者となれる者は、医師、保健師のほか、一定の研修を受けた
看護師、精神保健福祉士とする。
○ ストレスチェックの調査票は、「仕事のストレス要因」、「心身のストレス反応」及び
「周囲のサポート」の3領域を
全て含むものとする。具体的な項目数や内容は、事業者自ら選定可能だが、国が推奨する
調査票は「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」とする。
2 集団分析の努力義務化
○ 職場の一定規模の集団(部、課など)ごとのストレス状況を分析し、その結果を踏まえて
職場環境を改善することを努力義務とする。
3 労働者に対する不利益取扱いの防止について
ストレスチェックを受けない者、事業者への結果提供に同意しない者、面接指導を
申し出ない者に対する不利益取扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇、雇止め、
退職勧奨、不当な配転・職位変更等を禁止する。

20頁の報告書の内容はここには掲載しないが、上記HPなどで確認してもらいたい。
この制度でまず戸惑うのではないかと思われるのは、「実施者」についてではないかと思う。
事業者は労働者に対して制度に元づく検査を行う義務があるが、ストレスチェック
「実施者」は「医師、保健師その他の厚労省令で定める者」なのである。多くの場合、
産業医がこの「実施者」となるだろう。
事業者の役割は、「実施者」にストレスチェックを依頼し、その結果により希望者に
医師の面接指導を受けさせ、面接指導の結果から講ずべき措置について医師の意見を聴く、
集団分析結果を受けて職場改善へ努力する、ストレスチェック実施を行政に報告すること
である。
ストレスチェックの結果については、ポイント3の不利益取り扱いを防止するため、
実施者が個人結果を評価し、面接指導の対象者の選定を行い、事業者へは集団分析結果のみを
提供する。
とすると、事業者が行う最も重要な役割は、集団分析による職場改善で、制度の目的
ともいえる一次予防に当たるものだが、それは「努力義務」とされてしまった。
報告書には「集団分析の手法が十分に確立・周知されている状況になく、まずは努力義務
として周知を図る」とされている。事業者から行政への報告の内容も、
ストレスチェックの実施時期、②対象人数、③受検人数、④面接指導の実施人数の4項目で
職場改善については何もない。
また、報告書には「派遣労働者の取り扱いについて」という項目が設けられ、
個人のストレスチェックや面接指導は派遣元が実施義務を負うが、集団分析に基づく
職場改善の努力義務は派遣先にある。
派遣元が派遣先と連携する必要がある。

報告書はストレスチェック項目の内容から、上記したような実施方法、面接指導・集団分析
職場改善、不利益取り扱いの防止など詳細な内容で、一読ではとても把握できない
複雑なものとなっている。
「実施者」となるべき産業医にとっても、これまでと違った役割が課される。
ストレスチェックの評価、面接指導、職場改善への提言、個人結果の5年間の保存まで
含まれ、研修などが必要であり、すぐに実施するというわけには行かないだろう。
ほとんどの企業が、これまでもメンタルヘルス対策などを請け負ってきた業者のような
外部機関へ依頼することになると考えられる。

最後にもうひとつ問題を指摘するとすれば、従業員50人以下の小規模な企業で、一次予防に
つなげられるような対策がとれるかどうかということである。ストレスチェックだけでは
職場改善につなげるのは難しい制度である。
中小企業での集団分析はほとんど期待できない。やはり中小企業対策としては、
アクションチェックリストなどを活用した職場改善活動の方が、効果を発揮すると
考えられる。だが中小企業に今回の複雑なストレスチェック制度と合わせて、
アクションチェックリストによる対策などを実施するといったことが可能とは
あまり思えない。
小規模な企業でストレスチェックのみを行えば、やはり、労働者個人の不利益に
つながる可能性が高く、省令でこれら取り扱いを禁じたとしても現実問題、
ほんとうにそのようなことが起こらない保証はない。

すでに2月16日に開催される労働政策審議会安全衛生分科会で「労働安全衛生法の一部を
改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案要綱について」の
諮問が予定されている。
報告書を元に厚生労働省は、省令や指針などを策定し、この「心理的な負荷の程度を
把握するための検査等」の実施義務をスタートさせることになる。
一次予防目的と言いながら、一次予防を義務づけない矛盾したやっかいな制度ではないかと
思うが、全国労働安全衛生センター連絡会議による厚生労働省交渉も予定されており、
少しでも制度改善に努めたい。

メンタルヘルスチェックからストレスチェックへ

厚生労働省が職場の健康診断制度にメンタルヘルスチェックも盛り込むとして
検討されてきた制度ですが、この6月19日に労働安全衛生法改正案の一部として
国会で法案成立しました。
2011年から検討が始まり、反対意見が多くまとめるのに手間取り、
一度は政権交代で廃案になりながら安倍政権であっさり成立と思いきや、
最初の案からかなり方向転換した案になっています。
当初のもくろみは、職場のメンタル不調の労働者をあぶりだし、
早めに対処する、というものであったのが、
ストレスチェックを行い、ストレスの高い職場の改善につなげる
というものに変わったのです。
7月には、ストレスチェック項目の専門検討会が開かれ、
今後は内容を細かく詰めるための行政検討会などを行い、
来年12月施行の予定です。

ストレスチェック項目に関する専門検討会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000aiuu.html#shingi203931

これまでこのブログでもたびたび取り上げてきましたので、
関西労働者安全センターの機関誌8月号から
このテーマの原稿を長文ではあるが以下に紹介します。

これまでの話は、
http://d.hatena.ne.jp/yokito5656/20120128/1327725233
http://d.hatena.ne.jp/yokito5656/20120515/1337086345
を参考にしてください。



労働安全衛生法改正
職場のストレス環境改善につなげられるか

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、
医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において
「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための
検査を行わなければならない。

今年6月19日に国会で成立した労働安全衛生法改正案で、
新たに加えられることとなった第六十六条の十第1項である。
もともと2011年12月の民主党政権時代に国会に提出され、
全く議論されないまま翌年11月の解散で廃案となった労働安全衛生法改正案は、
この条文の「心理的な負担の程度を把握するための検査」の部分が
「精神的健康の状況を把握するための検査」となっていた。
事業者にいわゆるストレスチェックを義務化するということ自体は同じなので、
まったく同じ内容の法律改正のように見えるが、
実は目的や実際のチェック項目は相当変わってくるといえそうだ。

最初の案は
「メンタル不調者の把握と対策」だった

そもそも最初に厚生労働省内に設けられた「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」が
2010年5月にまとめた報告では、「メンタルヘルス不調者の把握と把握後の適切な対応」
の検討が必要とし、とにかく個々の労働者の不調者発見が目的であるような論調で
検討が進められてきた。何か初期の精神疾患の予兆のようなものを検査で見つけ出し、
早期に治療につなげるというイメージで改正方向が検討されたものだから、
当然のように厳しい批判が様々な立場から集中することとなった。
そもそも簡単な質問項目の問診票で個々の不調を判断できるわけがないという批判を筆頭に、
個々の労働者のプライバシーをめぐる問題や検査結果に伴う労働者の不利益扱いなど、
何とも理解しがたい改正案であったことは間違いないといえた。

ストレスチェック制度
目的は気づきと職場環境改善

これに対し、今度国会で成立した改正案では、「医師等」が行うのは
心理的な負担の程度を把握するための検査」であるとされている。
この趣旨について厚生労働省は次のように説明している。
メンタルヘルス不調の未然防止のためには、
①職場環境の改善等により心理的負担を軽減させること(職場環境改善)
②労働者のストレスマネジメントの向上を促すこと(セルフケア)が重要。
このため、ストレスチェック制度を設け、労働者の心理的な負担の程度を把握し、
セルフケアや、職場環境の改善につなげ、メンタルヘルス不調の未然防止のための
取組(一次予防)を強化する。」
つまりストレスチェックが個々のメンタルヘルス不調の早期発見につながるとしても、
あくまでも副次的なもので、主目的は本人の気づきと職場環境改善であるということなのである。
現在、厚生労働省で精力的に開かれている「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」が
俎上にあげている質問項目は、この趣旨に見合ったものとして「職業性ストレス簡易調査票」の
57項目を中心としたものになっているという。
廃案となった法案のときには、「心身のストレス反応」の9項目だけのモデルが
一部で提案されていたが、趣旨が大きく変化したことから「仕事のストレス要因」
「周囲のサポート」の各6項目、それに食欲と睡眠に関する項目を加えた23項目が
1案として出されている。

多様な職場環境改善のツールが必要

そしてこうしたストレスチェックの評価をどう考えるかについては、
本人の気づき促進はともかく、医師による面接指導を勧奨することになる
高ストレス者の判定方法など未知数の部分が多いというのが実際のところだ。
(下図参照「7月25日第3回ストレスチェック項目等に関する専門検討会資料より」)

また、ストレスチェック実施後の職場環境改善については、
メンタルヘルスアクションチェックリスト(職場環境改善のためのヒント集)
のようなツールが開発されており、活用事例も発表されているが、
その多くは大手事業場での取組事例である。
制度が実際に運用されることになる来年末に向けて、
中小規模事業場で事業者や労働者が活用の意欲が湧くようなメニューや
ヒントが少なくとも用意される必要もあるだろう。
ストレスチェック制度はあくまでも病気の発見が目的なのではなく、
個々の労働者の気づきと職場環境の改善であるというためには、
さらに制度の具体化が必要であるといえよう。

ぜひみちゃお、「もう一つの約束」

以前、韓国のサムソン電子の半導体工場で
有機溶剤を扱った労働者に白血病などのがんが多発しているという記事を、
日本の印刷会社SANYO-CYPの胆管がん事件とからめて紹介しました。
22歳で白血病で亡くなったファン・ユミさんが労災と認定されるまでの戦いを
映画にした「もう一つの約束」が日本でも公開されることになりました。



日本特別上映会開催「もうひとつの約束」
原題「 (Anoter Family)」(2014年・韓国、115分)
出演:パク・チョルミン、キム・ギュリ、パク・ヒジョン、イ・ギョンヨン
企画・脚本・監督:キム・テユン
制作:もうひとつの約束製作委員会

【日本上映会】
11/14(金)18時 名古屋 労働会館ホール(名古屋市熱田区沢下町9-7)
11/15(土)18時 大阪 エルおおさか 南ホール(大阪市中央区北浜東3-14)
11/16(日)18時 東京 なかのゼロ 小ホール(東京都中野区中野2-9-7)

参加協力券:1000円(前売制。上映委員会事務局または上映委員からお求めください)
問い合わせ先:「もうひとつの約束」上映委員会事務局 有限会社西ヶ原字幕社内
TEL: 03-3397-2235 / E-mail: 1yakusoku@jimakusha.co.jp

映画の詳しい情報は以下のHPへ
http://jimakusha.co.jp/1yakusoku/

韓国では普通に商業映画としてよい興行成績を収めた作品なのに
残念ながら自主上映みたいです。
ぜひ映画館で上映してほしいですね。

映画で描かれるドラマティックな出来事は
ほぼ事実に基づいています。
企業側がお金をちらつかせて労災請求をあきらめさせたり。
そのへん、日本でもある、アスベスト被害者に
安い示談金で口封じしてくる企業の手口と同じです。
被災者と家族は企業の妨害に加えて、周りの人からいろいろ言われたり、
戦いに疲れて家族がばらばらになったり、様々な困難にぶつかって挫折します。

もとのタイトルの「もう一つの家族」は
サムソングループのキャッチフレーズらしいのですが、
映画の中で被災者とその家族たちが一緒に戦う中で
「もう一つの家族だ」といいあって連帯感を深める場面があります。
サムソンの上っ面だけのキャッチフレーズに対して
皮肉を込めているのかもしれません。
あるいは本当の家族の絆を示しているのか、
そして最後までがんばり通した父親は労災との判決を
勝ち取るのですから。

しばらく前に、サムソンはやっと、労災にあった労働者とその家族に謝罪の意を表明し
現在は補償などの交渉を進めています。
しかし、サムソン側は被害者の補償の話はしても、
被災者側の要求する実態究明や今後の現れる被害者への対応などについては
後回し(もしくは避けている)にしようとしており、
まだ交渉は進んでいないようです。
今後、交渉がうまくいくように祈っています。

国際いじめ学会報告会

6月にイタリア・ミラノであった第9回国際職場のいじめ学会の報告会を
東京でやります。
以下に案内を貼り付けます。


◆ イ ベ ン ト の 案 内 ◆
第9回 国際職場のいじめ学会報告
「各国の経験を職場・労組でどう活かしていくか」

「この15年の間に、職場のいじめ問題についての関心は急激に大きくなってきています。
そしてしだいに世界の様々な国々や、研究と実務の領域における様々な関係者を巻き込んだ動きとなっています。……」
第9回国際職場のいじめ学会の呼び掛け文はこのような書き出しです。
ヨーロッパでは職場のいじめ問題に共通の認識を持ってそれぞれ取り組んでいます。
そして研究者や実務家が中心になって2年に1回国際職場のいじめ学会を開催しています。
学会では「法」、「差別」、「介入」、「健康」などさまざまな視点から報告や問題提起、意見交換が行われます。
第9回の学会は、6月17日から20日にイタリア・ミラノで開催されました。
参加した(独)労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員と長沼裕介アシスタント・フェローの2人から、
今回の学会の様子、各国の取り組みを今後日本でどのように活かしていくことができるのかなどについて報告してもらいます。

         日 時 : 2014年8月9日(土)13時30分〜16時
         会 場 : 渋谷勤労福祉会館 第2洋室(渋谷区神南1−19−8)
         報 告 :☆内藤 忍さん (独)労働政策研究・研修機構 副主任研究員
              ☆長沼 裕介さん (独)労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
                      (早大院文学研究科博士後期課程心理学専攻)
         資料代 : 1,000円
         主 催 : いじめ メンタルヘルス労働者支援センター(IMC)



◆ 出版のお知らせ ◆

『“職場のいじめ” 労働相談』

  いじめ メンタルヘルス労働者支援センター  千葉 茂 著
  緑風出版  2000円 + 税

『“職場のいじめ” 労働相談』は、2011年秋に刊行した『メンタルヘルスの労働相談』の続編です。
職場のいじめとメンタルヘルスケアは切り離せない問題ですが、『メンタルヘルスの労働相談』の中の
「職場のいじめ」「差別とは」とそれに関連する問題を中心に取り出して加筆しました。
労使関係は「法律」ではありません。“人間関係が一番の労働条件”です。
「相談活動は、交渉を経て紛争解決に向かいます。紛争の本当の解決とはどういうことを言うのでしょうか。
相談者の『成長』を確認し合うことです。そして自立した生活を取り戻すこと、
または再スタートに立つことです。つまりは職業生活を培っていける自信をつけるようにすること、
自分らしい納得した生活を送ることです。」
そして“いじめ”問題の最終的解決は人権の回復を伴うものでなければなりません。
まずは、1人ひとりが声をあげることが大切です。」

お申し込みは、いじめメンタルヘルス労働者支援センターへ
http://ijimemental.web.fc2.com/

オススメ!労災職業病チャンネル

先日、2013年の脳・心臓疾患、精神障害労災認定状況が
発表されました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000049293.html

どちらも認定率は低く、昨年、指摘した5府県
(埼玉、千葉、愛知、三重、大阪)の認定率も低迷しています。
詳しい批評は、後日書きます。
来週、全国労働安全衛生センター連絡会議
厚生労働省交渉を行いますので、その結果も踏まえて
報告するつもりです。

さて今回はお知らせ。
NPO法人神奈川労災職業病センターがyoutube
「労災職業病チャンネル」なるものを始めました。
第1回は「派遣法改正、残業代ゼロ...雇用規制緩和の背景と問題点」
として4つの動画を公開しています。
その1を以下に貼り付けます。

制作 NPO法人神奈川労災職業病センター
協力 神奈川労働弁護団横浜市民放送局

派遣法はじめ最近の労働行政の動き、問題点が
分かりやすく解説されていますのでおすすめです。

その2、その3、その4はyoutube
神奈川労災職業病センターのHP http://koshc.org/
横浜市民放送局 http://yokohama-tv.com/information/9634.html
でご覧ください。

2回目はどんな問題を取り上げてくれるのか、
楽しみですね。

東尋坊の月光仮面

またしばらくぶりになってしまいました。
今年が始まって、はや半年になろうとしています。
6月といえば、厚生労働省は昨年度の資料集計がまとまり、
脳・心臓・精神疾患の労災認定状況が発表される時期です。
それにあわせて、全国労働安全衛生連絡会議とIMCで厚労省交渉を行なう予定です。
昨年、精神事案の労災認定率の低い労働局に申入れを行ないましたが、
追及の手を緩めるつもりはありません。
厚生労働省がなんらかの是正の手を打つまで、やりますよ。

さて、ひとつお知らせです。
私の所属する関西労働者安全センターで年次総会を行なうのですが、
そこでの特別講演が大変興味深いものなのでお知らせします。
「自殺名所」というよろしくない方向で大変有名な東尋坊
そこで自殺者を救う「月光仮面」なる方がいらっしゃるというのは
聞いた事がある方もいると思います。
今回話していただくのは、月光仮面氏を取材するうちに
自らも活動にはまってしまったという人道記者、下地毅さんです。
朝日新聞の記者で現在福井総局、朝日の福井県版に「ルポ東尋坊」を連載中です。
総会ではありますが、会員外の方が特別講演を聴きたいが為に
参加していただくのも自由です。
もちろん、無料。
お得な講演会です、ぜひいらしてください。

◆関西労働者安全センター第34回総会
日 時 :7月4日(金) 午後6時〜8時
場 所 :エル大阪南館 734号室

(地下鉄・京阪「天満橋」駅 西へ徒歩5分)
http://www.l-osaka.or.jp/pages/access.html

 総会内容:
  1)総会議事(昨年度活動報告、新年度活動方針など)
  2)特別講演 「ルポ東尋坊(とうじんぼう)を書きながら」
話:下地 毅さん(新聞記者、朝日新聞福井総局)

下地さんは石綿問題とりわけ泉南国賠裁判における原告密着取材を続ける記者として
その筋では有名なのですが、労働問題を含めて現場と自身の感性を貫く取材姿勢からか、
いろんなところに彼を知る人がおられるます。
福井に赴任してからは、越前加賀の名勝・東尋坊に自殺を考えて訪れる人たちと
その彼らを助けようと頑張る人たちを取材しはじめ、その連載レポート「ルポ東尋坊」は
これまで132回。異例の長期ルポとなり、静かに注目を集めています。

アニメ製作労働者の過労自殺

またしても痛ましい過労自殺の記事が。
以下、共同通信の配信ニュースから。



アニメ制作で過労自殺
カルテに「月600時間」 28歳男性、労災認定

2014年04月18日 共同通信

東京都のアニメ制作会社「A―1 Pictures」に勤め、辞めた後の2010年10月に
自殺した男性=当時(28)=について、新宿労働基準監督署が過労によるうつ病が原因として
労災認定したことが18日、分かった。遺族側代理人の和泉貴士弁護士が明らかにした。
認定は11日付。
和泉弁護士によると、男性は正社員として06年から09年12月まで勤務。会社にタイムカードで
労働時間を管理する仕組みはなかったが、通院した医療施設のカルテには「月600時間労働」
との記載があった。
新宿労基署は時期を不明としつつ、在職中にうつ病を発症し、その前の2〜4カ月に少なくとも
100時間を超える残業があったと認定した。
一方、弁護側は男性が残した会員制交流サイトの日記などから発症時期を08年12月ごろと推定。
男性が在職中に控えた記録では、それまでの半年の残業時間は月134時間から、多い時で
344時間に上ったという。
和泉弁護士は「家に帰れないこともしばしばで、残業代が支払われた形跡もない」と指摘。
7日連続で会社に泊まったり、3カ月間休みがなかったりしたこともあったとしている。
昨年9月に労災申請した両親は弁護士を通じ「アニメが好きで熱心に働いていた。アニメの現場で
二度と同じようなことが起きないでほしい」とのコメントを出した。
男性は作画を担当者に依頼したり、完成品を受け取ったりする「制作進行」と呼ばれる現場の調整役を
務めていた。人気アニメ「おおきく振りかぶって」「かんなぎ」などに携わった。
体調を崩したことや関連会社への異動を断られたことから退職。10年10月に東京都内の
自宅アパートで死亡しているのが見つかった。会社は「認定が事実であるとすれば予想外であり、
判断理由も不明のためコメントできない」としている。

10カ月で休み3日 運転中に意識飛ぶ 過酷労働、日記につづる
「10カ月で3日しか休みがない」「運転中に意識が飛んだ。1日1〜3時間しか寝ていない」。
新宿労働基準監督署が自殺を労災と認定した男性=当時(28)=は、勤めていたアニメ制作会社の
過酷な労働の一端をインターネットの日記に残していた。業界関係者は「彼のケースは
例外とは言えない」と指摘、労働環境の改善を訴えている。
男性は会社で「制作進行」と呼ばれる仕事に就いていた。業界関係者によると、一つのアニメ作品が
出来上がるまでには、原画を描くアニメーターだけで20〜30人、演出家、
コンピューターグラフィックス(CG)担当、監督、プロデューサーも合わせるとスタッフは
100〜200人にも上る。制作進行担当は全体スケジュールを管理し、多数の下請け会社や
個人の作業者を束ねる役割を果たす。
制作は1カ所で行われるわけではなく、分業が一般的。アニメーターの事務所や作業場を一軒一軒、
車で回って原画を回収し、CGを制作する部署や演出家に届けることも制作進行担当の仕事だ。
業界内ではこの車を「進行車」と呼び「睡眠不足で運転するため事故が多く、問題になっている」
(関係者)という。
「朝8時に退社し、6日ぶりに家の布団で寝る。11時に電話で起こされて出社」「3カ月くらい
家に帰れないなんてことはざらにある」。男性は会員制交流サイト「ミクシィ」の日記に、
仕事に追われる日々を書き連ねた。自殺前に通院していた医療施設のカルテには
「月600時間労働」「名ばかり管理職」「不眠、食欲低下、気力低下」の記載もあった。
日本アニメーター・演出協会副代表でアニメ監督のヤマサキオサムさんは、制作進行の仕事について
「締め切りに追われ、深夜に突然『来てくれ』と言われることも多く、精神的にいつも
拘束される仕事だ」と話す。
別の業界関係者は「彼は正社員だったが、契約社員も多い業界。身分が不安定な契約社員
もっと酷使されている」と指摘している。



私はアニメーションも漫画も好きです。
テレビでは何局もで毎週放送のアニメーション番組があり、
とてつもない量のしかも一定以上のクオリティの作品が
製作されています。
作品はとてもすばらしい、しかし製作現場の労働が過酷であるというのは
もれ聞こえてくるところで、過重労働、低賃金、アジア地域の外国への作業の外注、
問題も多く抱えているようです。
日本社会全体が、低賃金の非正規労働者の増加という問題を抱える中、
もともと時間に追われる業界の労働条件が厳しいのは想像するに易い。
けれど、仕方ないで推し進めないで、一歩踏みとどまって
こういう事件を受けて現場を見直してほしい。
労働安全衛生にも様々な手法があって、改善方法がないということは
ないはずです。
人に夢を与えるすばらしい作品を生み出す業界だからこそ、
取り組んで欲しい課題です。

私に依頼してくれれば全力で職場改善やるんですけどね。
大手制作会社さんからぜひやってほしいですね。