メンタルヘルスチェックからストレスチェックへ

厚生労働省が職場の健康診断制度にメンタルヘルスチェックも盛り込むとして
検討されてきた制度ですが、この6月19日に労働安全衛生法改正案の一部として
国会で法案成立しました。
2011年から検討が始まり、反対意見が多くまとめるのに手間取り、
一度は政権交代で廃案になりながら安倍政権であっさり成立と思いきや、
最初の案からかなり方向転換した案になっています。
当初のもくろみは、職場のメンタル不調の労働者をあぶりだし、
早めに対処する、というものであったのが、
ストレスチェックを行い、ストレスの高い職場の改善につなげる
というものに変わったのです。
7月には、ストレスチェック項目の専門検討会が開かれ、
今後は内容を細かく詰めるための行政検討会などを行い、
来年12月施行の予定です。

ストレスチェック項目に関する専門検討会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000aiuu.html#shingi203931

これまでこのブログでもたびたび取り上げてきましたので、
関西労働者安全センターの機関誌8月号から
このテーマの原稿を長文ではあるが以下に紹介します。

これまでの話は、
http://d.hatena.ne.jp/yokito5656/20120128/1327725233
http://d.hatena.ne.jp/yokito5656/20120515/1337086345
を参考にしてください。



労働安全衛生法改正
職場のストレス環境改善につなげられるか

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、
医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において
「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための
検査を行わなければならない。

今年6月19日に国会で成立した労働安全衛生法改正案で、
新たに加えられることとなった第六十六条の十第1項である。
もともと2011年12月の民主党政権時代に国会に提出され、
全く議論されないまま翌年11月の解散で廃案となった労働安全衛生法改正案は、
この条文の「心理的な負担の程度を把握するための検査」の部分が
「精神的健康の状況を把握するための検査」となっていた。
事業者にいわゆるストレスチェックを義務化するということ自体は同じなので、
まったく同じ内容の法律改正のように見えるが、
実は目的や実際のチェック項目は相当変わってくるといえそうだ。

最初の案は
「メンタル不調者の把握と対策」だった

そもそも最初に厚生労働省内に設けられた「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」が
2010年5月にまとめた報告では、「メンタルヘルス不調者の把握と把握後の適切な対応」
の検討が必要とし、とにかく個々の労働者の不調者発見が目的であるような論調で
検討が進められてきた。何か初期の精神疾患の予兆のようなものを検査で見つけ出し、
早期に治療につなげるというイメージで改正方向が検討されたものだから、
当然のように厳しい批判が様々な立場から集中することとなった。
そもそも簡単な質問項目の問診票で個々の不調を判断できるわけがないという批判を筆頭に、
個々の労働者のプライバシーをめぐる問題や検査結果に伴う労働者の不利益扱いなど、
何とも理解しがたい改正案であったことは間違いないといえた。

ストレスチェック制度
目的は気づきと職場環境改善

これに対し、今度国会で成立した改正案では、「医師等」が行うのは
心理的な負担の程度を把握するための検査」であるとされている。
この趣旨について厚生労働省は次のように説明している。
メンタルヘルス不調の未然防止のためには、
①職場環境の改善等により心理的負担を軽減させること(職場環境改善)
②労働者のストレスマネジメントの向上を促すこと(セルフケア)が重要。
このため、ストレスチェック制度を設け、労働者の心理的な負担の程度を把握し、
セルフケアや、職場環境の改善につなげ、メンタルヘルス不調の未然防止のための
取組(一次予防)を強化する。」
つまりストレスチェックが個々のメンタルヘルス不調の早期発見につながるとしても、
あくまでも副次的なもので、主目的は本人の気づきと職場環境改善であるということなのである。
現在、厚生労働省で精力的に開かれている「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」が
俎上にあげている質問項目は、この趣旨に見合ったものとして「職業性ストレス簡易調査票」の
57項目を中心としたものになっているという。
廃案となった法案のときには、「心身のストレス反応」の9項目だけのモデルが
一部で提案されていたが、趣旨が大きく変化したことから「仕事のストレス要因」
「周囲のサポート」の各6項目、それに食欲と睡眠に関する項目を加えた23項目が
1案として出されている。

多様な職場環境改善のツールが必要

そしてこうしたストレスチェックの評価をどう考えるかについては、
本人の気づき促進はともかく、医師による面接指導を勧奨することになる
高ストレス者の判定方法など未知数の部分が多いというのが実際のところだ。
(下図参照「7月25日第3回ストレスチェック項目等に関する専門検討会資料より」)

また、ストレスチェック実施後の職場環境改善については、
メンタルヘルスアクションチェックリスト(職場環境改善のためのヒント集)
のようなツールが開発されており、活用事例も発表されているが、
その多くは大手事業場での取組事例である。
制度が実際に運用されることになる来年末に向けて、
中小規模事業場で事業者や労働者が活用の意欲が湧くようなメニューや
ヒントが少なくとも用意される必要もあるだろう。
ストレスチェック制度はあくまでも病気の発見が目的なのではなく、
個々の労働者の気づきと職場環境の改善であるというためには、
さらに制度の具体化が必要であるといえよう。