ストレスチェック制度いよいよ その3

ストレスチェック制度の続きです。
(関西労災職業病2015年7月号より)


ストレスチェック制度にどう取り組むか(1)

12月1日より施行される改正労働安全衛生法ストレスチェック制度については、関係省令、指針、施行通達が出そろい、
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」も165ページというボリュームで公表された。
そもそも職場で個人が感じるストレス情報の扱いを、事業者の責務として行われるという無理を押した制度なので、
整合性あるものにするためにはたくさんの制限を設けなければならない。そのために入り組んだ手順の解説は
とてもややこしいものにならざるを得ない。そこで、本誌では「実施マニュアル」の解説からいくつかの項目を
取り上げて、注意点を指摘してみたい。

検査項目は機微に触れる情報

ストレスチェックの具体的な方法は、質問項目が並んだ調査票を労働者に配布、それに一人一人が答えを記入し
回収するという手になる。このアンケート用紙のような調査票の質問内容はというと、①心理的な負担の原因、
②心身の自覚症状、それに③他の労働者からの支援状況とされている。

労働安全衛生規則第五十二条の九
事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、
次に掲げる事項について法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査
(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない。
一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
三 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目

毎日の職場でその労働者がどのようにストレスを感じているかを知るために必要な項目だが、
普通の健康診断と同じように事業者に扱いをゆだねるわけにはいかない。そのため、ストレスチェック
実施者は、当該の労働者に結果を通知しても、労働者の同意を得ないで同じものを事業者に
提供してはならないとしている。

労働安全衛生法第六十六条の十
2 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、
当該検査を行った医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、
当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を
事業者に提供してはならない。

ストレスチェック制度の目的は、メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)であり、労働者自身の
ストレスへの気付きを促すとともに、職場改善につなげるということなので、個々人のストレス情報を
事業者が知る必要はないということになる。だから、もっとも大量の情報が得られることとなる最初の
調査票による検査結果は、義務主体である事業者には行かないということなのだ。
ただし検査の結果、高ストレスの状況にあると判定され、医師による面接指導を受けることを勧奨し、
申し出た場合には、その情報は事業者に提供されることになる。面接指導に基づく措置等についての
対応が必要であることから当然のことになるだろう。
ところがここで実務を進めていくうえで一つ問題となることがある。
面接指導を申し出る前の段階にある労働者の検査結果情報の扱いである。法律では「・・・当該医師等は、
あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。」
とあり、逆に読むと当該労働者の同意を得たときは結果の提供を受けることができるとなる。
この「ストレスチェック結果の事業者への提供」について、指針は次のように説明している。

ストレスチェック結果の事業者への提供に当たっての留意事項
ア 労働者の同意の取得方法
ストレスチェック結果が当該労働者に知らされていない時点でストレスチェック結果の事業者への
提供についての労働者の同意を取得することは不適当であるため、事業者は、ストレスチェック
実施前又は実施時に労働者の同意を取得してはならないこととし、同意を取得する場合は
次に掲げるいずれかの方法によらなければならないものとする。ただし、事業者は、労働者に対して
同意を強要する行為又は強要しているとみなされるような行為を行ってはならないことに留意すること。
① ストレスチェックを受けた労働者に対して当該ストレスチェックの結果を通知した後に、
事業者、実施者又はその他の実施事務従事者が、ストレスチェックを受けた労働者に対して、
個別に同意の有無を確認する方法。
② ストレスチェックを受けた労働者に対して当該ストレスチェックの結果を通知した後に、
実施者又はその他の実施事務従事者が、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると
実施者が認めた労働者に対して、当該労働者が面接指導の対象であることを他の労働者に
把握されないような方法で、個別に同意の有無を確認する方法。
なお、ストレスチェックを受けた労働者が、事業者に対して面接指導の申出を行った場合には、
その申出をもってストレスチェック結果の事業者への提供に同意がなされたものと
みなして差し支えないものとする。
イ 事業者に提供する情報の範囲
事業者へのストレスチェック結果の提供について労働者の同意が得られた場合には、実施者は、
事業者に対して当該労働者に通知する情報と同じ範囲内の情報についてストレスチェック結果を
提供することができるものとする。
なお、衛生委員会等で調査審議した上で、当該事業場における事業者へのストレスチェック結果の
提供方法として、ストレスチェック結果そのものではなく、当該労働者が高ストレス者として選定され、
面接指導を受ける必要があると実施者が認めた旨の情報のみを事業者に提供する方法も考えられる。
ただし、この方法による場合も、実施者が事業者に当該情報を提供するに当たっては、上記アの
①又は②のいずれかの方法により、労働者の同意を取得しなければならないことに留意する。
ウ 外部機関との情報共有
事業者が外部機関にストレスチェックの実施の全部を委託する場合(当該事業場の産業医等が
共同実施者とならない場合に限る。)には、当該外部機関の実施者及びその他の実施事務従事者以外の者は、
当該労働者の同意なく、ストレスチェック結果を把握してはならない。なお、当該外部機関の実施者が、
ストレスチェック結果を委託元の事業者の事業場の産業医等に限定して提供することも考えられるが、
この場合にも、緊急に対応を要する場合等特別の事情がない限り、当該労働者の同意を取得しなければ
ならないものとする。
エ 事業場におけるストレスチェック結果の共有範囲の制限
事業者は、本人の同意により事業者に提供されたストレスチェック結果を、当該労働者の健康確保のための
就業上の措置に必要な範囲を超えて、当該労働者の上司又は同僚等に共有してはならないものとする。

個別の結果情報は事業者に不要
提供しないことを明確に

はたして高ストレス状態と判断され、本人から医師の面接指導の申し出があった労働者以外の情報で、
個々の労働者のストレスチェック結果の情報を、個々の労働者の同意を得る手続きを経てまで事業者が
得るという必要があるのはどのような場合が想定されるだろう。もちろん、結果を集団分析し、
職場改善につなげるための情報として取得することは当然のことだが、それには個々の情報が
必要だというわけではない。まるで費用を全部負担しているのだから情報が手元にないのは
悔しいというわけでもあるまいに。

もし、事業者が結果情報を労働者の同意を得る手続きを行ったうえで取得する方針を打ち出すとすると、
それは手順等を審議する衛生委員会での議題になるわけなので、その利用目的や共有範囲などを
明確にして十分な周知をしなければならないということになる。
「実施マニュアル」での解説は、
「○ 衛生委員会の調査審議の結果、事業者による個々人のストレスチェックの結果の把握は行わない
(集団ごとの分析結果の活用は行う)こととした場合は、労働者からの同意取得の手続きは不要となります。
○ この場合でも、労働者から医師による面接指導の申出がなされた場合については、事業者への
ストレスチェック結果の提供の同意がなされたものとみなすことができます。」
としている。
もちろん、ストレスチェック結果の有意な活用方法が全くないと断言することはできないかもしれず、
その意味でこうした同意取得方法の解説は必要なのだろうが、実際問題としては、
事業者によるストレスチェック結果のこの段階での情報取得は、個々の事業場で「行わない」ことを
明確にしておくのがよいだろう。
次回は調査票について。