ストレスチェック制度いよいよ その4

(関西労災職業病2015年8月号より)

ストレスチェック制度にどう取り組むか(2)


検査項目は三つの領域が要件

労働安全衛生法改正で12月1日より義務付けられるストレスチェックの内容は、
規則の次の条文で要件が規定されている。

労働安全衛生規則第52条の9 事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、
定期に、次に掲げる事項について法第66条の10 第1項に規定する心理的
負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
① 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
② 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
③ 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目

法令が求めるのは、①仕事のストレス要因、②心身のストレス反応、③周囲の
サポートの三つの領域について調べることである。
指針や実施マニュアルによると、これらの内容についての質問を並べた調査票に
労働者自ら記入または入力してもらう方法を基本としつつ、補足的に面談も行い
より具体的に個々の労働者のストレスの状況を把握する方法もあり、
それぞれの事業場の実情に応じて適切な方法を選択するとしている。
使用する調査票は、医師等の専門家である実施者の提案や助言、
そして衛生委員会での調査審議を経て、事業者が決定することとなる。
具体的に推奨するとしているのは、「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)を
利用することで、また、これを簡略化した23項目の簡易版も紹介されている。
ただ、この調査票はあくまでもモデルであって衛生委員会での審議や各々の判断で
項目を選定することもできるとされる。ただ要件となるのは規則で指定されている
三つの領域の項目をすべて含むといいうことだ。



スクリーニング検査ではない

実施マニュアルでさらに記されているものに、「ストレスチェックに含めることが
不適当な項目」がある。「性格検査」「希死念慮」「うつ病検査」である。
そもそも適性検査や性格検査は、ストレスチェックの目的には明らかに含まれないものだ。
また希死念慮自傷行為に関する項目は、背景事情を含めた評価や対応をとれる体制などが
必要なものであり、目的を逸脱するものとなってしまう。
ストレスチェック精神疾患のスクリーニングではないことを理解したうえで
項目を選定する必要があるといえよう。

健康診断とは明確な区別が必用

それからもう一つ気になるのは、従来の一般定期健康診断(労働安全衛生法第66条に
既定されている)での問診との関係である。
健康診断での医師による問診は、身体症状のみならず精神面の症状も同時に
診ることにより、総合的に心身の健康状況を判断するもので、労働者の健康管理を
目的とするものなら原則として制限されることはない。だから、たとえば健康診断の
ときの問診票をもっと詳しいものにして、三つの領域の項目を含むものにして
ストレスチェックを兼ねてしまうというのはどうだろうか。
健康診断の前提は、実施主体が事業者であり、その結果についても把握する責任は
事業者にあり、記録の義務もある。これに対しストレスチェック制度は、その結果を
事業者は労働者の同意なく知ることはできない。まるで違う制度ということになるので、
健康診断で兼ねてしまうなどというのは全く不可能だということになる。
それ以上に、今度施行される改正労働安全衛生法の第66条では「・・・医師による
健康診断を行わなければならない。」の「健康診断」のあとにカッコ書きで、
「第66条の10第1項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。」
を加えている。
つまり、「仕事のストレス要因」などの3領域の項目を問診票に入れて、
点数化したりして評価するなどということを健康診断の中に取り入れるなどというのは、
この条文に反することになるわけだ。仮にそれが職業性ストレス簡易調査票とは
異なる質問項目を使用したとしても不適当だということになる。
一方、「イライラ感」、「不安感」、「疲労感」、「抑うつ感」、「睡眠不足」、
「食欲不振」などを問診票に入れてその有無を把握するのはストレスチェックには
該当しないということになる。
実際の運用として、比較的小規模な事業場の場合、健康診断を委託している健診機関に
ストレスチェックも委託する場合がありそうだが、そのような場合も明確な区別が必要といえよう。

独自項目、基準は職場環境改善

調査票に事業場独自の項目を入れるのはよいとされるが、それでは仕事のストレス要因などの
質問項目で、自由記入欄を設けるのはどうだろうか。
ストレスチェックの制度は、ストレスの程度を評価するということが目的なので、
これさえ満たしておれば自由記入欄を設けることも差し支えないというのは、
厚生労働省が公表している「ストレスチェックQ&A」での見解だ。ただ、この自由記入欄も
含めてストレスチェックの結果に当たるわけで、労働者の同意なく事業者は知ることは
できないということになる。とすると、自由記入欄がどのような場合に意味を持つかというのは、
かなり限定されたものになるということだ。
ストレスチェック制度の目的は、①一次予防(メンタルヘルス不調の未然防止)、
②労働者自身のストレスへの気付きを促す、そして③ストレスの原因となる職場環境の
改善につなげるというものであるということをこの制度の運用をする際には
何度も何度も確認しておかなければならない。調査票の項目を検討する際にも、
目的に合致するものなのかどうかが肝心だということになる。
次回は衛生委員会での検討項目。