ストレスチェック制度いよいよ その5

ストレスチェック制度の続き
関西労災職業病2015年9月号より


ストレスチェック制度にどう取り組むか(3)

大事な衛生委員会の役割

ストレスチェックを実施する前に、衛生委員会で調査審議する必要があるというのは、
労働安全衛生法が定める安全衛生管理体制の仕組みから見て当然のこと、というのは
誰もが認めるだろう。メンタルヘルス対策が、産業保健の課題の中でも最も重要なものに
なってきているという現代的な事情からも、特に大事だということになるだろう。
ただ、ストレスチェック制度の運用ということから考えると、産業保健の課題ということ
以外に、もう一つ個人情報を扱い、職場のストレス要因という機微に触れる情報を扱う
ということから、その秘密の保持をどう担保するかということが課題となってくる。
そのために、事業場内の第三者的な立場からのチェック機能を果たせるのは、
衛生委員会ということになる。

まずは関係者(衛生委員)が理解

あらためて衛生委員会についての法令上の規定をみておこう。
労働安全衛生法第18条は、労働者数50人以上の事業者に、衛生委員会を設けて、
①労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策、
②労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策、
労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること、
④労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項について、
調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるとしている。
そしてその④は労働安全衛生規則第22条項目が列挙され、その中に
「労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」が含まれている。
この規定を根拠として、ストレスチェック制度は衛生委員会での調査審議事項とされるのだが、
指針と実施マニュアルには衛生委員会の役割が大きく強調されている。
まず衛生委員会が、事業の実施を統括管理する者、労働者、産業医及び衛生管理者等で
構成されることから、制度の趣旨を関係者が正しく理解する場としての重要性に期待する。
そして調査審議する項目を列挙する。まず最初にあげるのが、ストレスチェック制度
目的の周知に関することだ。

一次予防という目的の周知

労働者自身のストレスへの気付き及びその対処の支援並びに職場環境の改善を通じて、
メンタルヘルス不調となることを未然に防止する一次予防を目的としており、メンタルヘルス
不調者の発見を一義的な目的としないという趣旨は、健康診断等を担当してきた
産業保健担当者でさえ理解していないことがあり得る。もちろんこの制度が実際に運用されだすと、
この勘違いはなくなるのかもしれないが、担当者でさえ誤解があるような制度の運用にあたっては
まず正確な情報を周知する必要があるといってよい。とくに衛生委員会の労働組合推薦の委員は、
このことに十分留意する必要があるだろう。
次にストレスチェック制度の実施体制である。誰が実施するのか、つまりチェックの結果の情報を
扱う責任を持つのは誰なのかを明確に示さねばならない。産業医もしくは産業医を含む複数の
実施者により行われるのであれば、原則は産業医がその代表者となるのかどうか、外部機関が
行うのであればその担当する実施者を明示させる必要がある。

職場改善に生かす集計・分析へ

3つ目に、調査票はどのようなものを使用するのか、そこからストレスの程度を評価する方法を
どうするのか、面接指導の対象とする高ストレス者の選定基準、面接指導の申し出方法、
面接指導の実施場所等の実施方法である。このような項目は、専門家でもない衛生委員が
どのように点検するのか、あるいは追加意見を述べるのかという問題があるかもしれない。
もちろん事業場にふさわしいストレス要因の発見方法等についての議論があればよいのだが、
もしそうでなくとも、チェック項目等に不適当なものがないか、面接指導の勧奨や実施について、
労働者の権利を損なう可能性がある運用が含まれていないかについても注意しておく必要があるだろう。
4つ目に、結果に基づく集計・分析に関する方法についてである。
ストレスチェックは、職場のストレス要因を調べて改善するために行うという、
もっとも大事な目的のために、結果を集計・分析して活かさなければならない。
職業性ストレス簡易調査票を用いた分析方法については、いろいろな事例が報告されていて、
テキストも容易に手に入れることができるが、個々の職場でどう生かすのかは受け止める側の
取り組み次第ということになる。ただただ集計した数値を列挙したものが報告されるだけでは
情報の垂れ流しでしかなく、もし分析の集団規模が細切れなままで行われたら、個々のチェック
結果情報が推測されるなどということにもなりかねない。

受けない選択もあるという周知

次にストレスチェックの受検の有無に関する情報である。健康診断とは異なり、ストレスチェックには
労働者の受検義務はない。指針はできるだけ全員が受検するように勧奨することを旨とするが、
衛生委員会での議論としては、勧奨方法が労働者の不利益につながるものでないかどうかを
少なくともチェックしておく必要があるだろう。たとえばストレスチェックを受けるのが
あたかも義務であるかのような周知がなされ、受けないという選択ができることが分からないのであれば
これは不適当ということになる。
ストレスチェック結果を本人に伝える方法、実施者が高ストレス者に対して面接指導の申し出を
勧奨する方法、集計・分析結果及び面接指導結果の共有方法と共有範囲、本人の同意の取得方法と
実施者が事業者に提供するストレスチェック結果に関する情報の範囲、これらの取り扱いについても、
運用の具体的な方法について透明性を十分に確保しておく必要があることになる。たとえば事業者に
ストレスチェックの個別の結果を提供するなどというのは、必要性が明らかでない限り
認めないこととするのでよいだろう。
ほか、結果の記録について、実施者がどのようにいつまで保存するのかについても
明確にしておく必要がある。
ここまでみて言えることは、衛生委員会での労働組合推薦委員の役割が相当程度
大きいということだろう。職場改善へその結果を生かすためには、衛生委員会での議論に
期待するところは大きいのである。
なお、衛生委員会の議事は開催の都度、その概要を労働者に周知することとされており、
記録については3年間保存することとされている。
次回はストレスの程度の評価と高ストレス者の選定。