ストレスチェック制度いよいよ その6

ストレスチェック制度にどう取り組むか(4)
(関西労災職業病2015年10月号より)

高ストレス者をどう選ぶのか

労働安全衛生規則は、検査の内容となる事項を指定している。
①職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目、
②当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目、
③職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目の3つである。
この3つの項目について記載した調査票を用いて、
労働者の心理的な負担の程度を把握する作業が事業者に義務づけられ、
その結果、高ストレス者と判断される労働者については、
医師による面接指導を受けることを勧奨するということになる。
条件を満たせばこの調査票はどのようなものであってもよいことになるが、
現実には、ストレス状況の把握ができるものでなければならないのだから、
範囲は絞られる。
厚生労働省の指針は、「職業性ストレス簡易調査票」(表1)を用いることが
望ましいと指定しており、この57項目(簡易版では23項目)の調査票にもとづいた
評価方法が示されている。
ここではマニュアルに示された高ストレス者の評価方法について紹介する。

表1

心身の自覚症状など点数化で
高ストレス者を選定

57の質問項目への答えを点数化して評価するのだが、
まず、どう点数をつけるのかに気を付けておかねばならない前提がある。
質問への答えが肯定であるときと否定であるときに評価が
質問内容によって反対になる場合があるということだ。
たとえばAの1で「非常にたくさんの仕事をしなければならない」に、
4段階のうち「そうだ」と答え、ストレスが高いとして4点としたとき、
Aの8の「自分のペースで仕事ができる」に同じく「そうだ」と答えた場合、
逆にストレスが低いほうに評価しなければならないから逆の評価をして
1点にしなければならない。
そのようにして57項目の質問の点数の付け方の前提としては、
Aの項目では、1〜7、11〜13、15の質問で「そうだ」を高ストレスと評価して4点、
他の質問では逆に「ちがう」を高ストレスと評価して4点と評価する。
Bの項目では1〜3で「ほとんどなかった」を高ストレスとして4点、
それ以外では「ほとんどいつもあった」を4点と評価する。
Cについては、すべての質問で「全くない」を4点とする。
このようにして点数化した回答を、質問領域ごとに合計して、
点数が高く、一定の基準を超えた人を高ストレス者として評価する
というのがマニュアルで推奨されている一つの方法だ。

労働者一人一人の
ストレスプロフィール評価も

もう一つの方法として、素点換算表(表2)を使う方法が紹介されている。
この評価法は、調査票の57の質問項目をより細かい尺度ごとに分けて、
その合計点数により5段階の評価をするやり方になっている。
Aならば、仕事の負担が1〜3、コントロール度が4〜6、
疲労感が7という具合で、それぞれ合計点数を5段階に振り分けるようになっている。
また、この換算表では、「そうだ」が1点か4点かという振り分けは
あらかじめ表の中で設定されているため、いちいち変換する必要はない。
「計算」の欄には点数の計算方法が書かれている。
たとえば、1〜3の質問が全部「そうだ」という答えになっていたら合計3点なので、
15−3で12点となり、「心理的な仕事の負担(量)」は「高い/多い」と評価されることになる。
そのようにして各尺度について評価ができるが、素点換算表の網掛けがある側がより
高ストレスになるということになる。
そして、この評価が個人ごとにストレスのプロフィールとして表すことができるというわけだ。

表2

さらに、この素点評価表に評価点を割り振ったのが表3である。
この評価点を領域A、B、Cごとに合算することにより、
その労働者のストレス状況を総合評価することになる。
表3では、領域Bの評価点が12点以下であるか、
領域AとCの合計評価点が26点以下であり、
かつBの評価点の合計が17点以下であることを高ストレス者の要件としており、
この例は高ストレス者と判断されることになる。

表3

補足的面接による
評価もあるというが・・・

このように評価方法を記述すると、とてもわかりにくいのだが、
実際に使ってみるとそう複雑でもない。
また、表2の性別にわけた点数の下にある%表示は、
さまざまな業種、職種の労働者約2万5千人のデータベースにもとづく
分布を示したもので、評価時の参考にできるものだ。
とはいえ、単純に57の質問への答えだけで高ストレス者と評価して、
医師による面接指導を勧奨するというのはいかがなものかと考える人も多いだろう。
厚生労働省の指針は、点数のみによる高ストレス者選定以外の方法として
次のような方法にも触れている。
「選定基準に加えて補足的に実施者又は実施者の指名及び指示のもとに
その他の医師、保健師、看護師若しくは精神保健福祉士又は産業カウンセラー
若しくは臨床心理士等の心理職が労働者に面談を行い
その結果を参考として選定する方法も考えられる。
この場合、当該面談は、法第66 条の10第1項の規定による
ストレスチェックの実施の一環として位置付けられる。」
要するにストレスチェックの実施者が、
直接面接して高ストレス者といえるかどうか判断するというわけだ。
ただこの面接は、あくまでも「ストレスチェックの一環」ということになるので、
当該労働者の同意なく、その情報が事業者に伝わってはならないことになる。
いずれにしろ、高ストレス者の選定は、医師による面接指導勧奨に直接つながる作業であり、
きわめて重要であることは明らかだ。
事業者にとってみれば、このストレスチェック制度のうち、
もっとも費用負担が重い面接指導に関わるものである点も運用に影響を及ぼしそうともいえる。