ストレスチェック制度いよいよ その1

ずいぶんと間が空いてしまいました。
久しぶりに何か書こうと思うと、話題はやはり最後の記事でも取り上げた
ストレスチェック制度、です。
まずは、制度の中身を具体化する3つの専門検討会による報告書について。
以下は2月に関西労働者安全センターの機関誌に掲載した文章です。
現在は指針、マニュアルも発表されています。
それらの解説も今後取り上げます。


ストレスチェック制度に関する検討会報告書を発表

昨年6月の労働安全衛生法の一部改正で、「心理的な負荷の程度を把握するための検査等」が
義務(従業員数50人未満の事業場については当分の間努力義務)づけられ、
本誌2014年7月号8月号でも紹介した。
新たな制度は、今年2015年12月1日に施行される。
具体的な運用方法は厚生労働省令や指針などで示すこととなっており、制度の詳細を
固めるため、この間3つの専門検討会が急ピッチで行われ、2014年12月17日に
その結果をまとめた「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関する検討会報告書」
(以下、「報告書」という)が発表された
厚生労働省HP:http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000069012.pdf
報告書で改めてあげられている新たな制度の概要は以下のとおりである。
・事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の
厚生労働省令で定める者による心理的負荷の程度を把握するための検査(ストレスチェック
を行わなければならないこと。
・検査結果は、検査を実施した医師などから直接本人に通知され、あらかじめ本人の同意を
得ないで、検査結果を事業者に提供してはならないこと。
・事業者は、検査結果の通知を受けた労働者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する
労働者から申し出があったときは、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導
を行わなければならないこと。
・事業者は、申し出を理由として、不利益な取り扱いをしてはならないこと。
・事業者は、面接指導の結果に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を
聴き、その意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業上の措置を講じなければ
ならないこと。
厚生労働大臣は、事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を
公表すること。
これを具体化するために行われた検討会は、「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」
(7月7日〜9月9日計4回開催)、「ストレスチェックと面接指導の実地方法等に関する検討会」
(10月10日〜12月15日計5回開催)、「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び
不利益取り扱い等に関する検討会」(10月3日〜12月15日計5回開催)の3つだ。
それぞれ1〜2週間置きに会議が開かれるようなハイペースで議論され、議論を事務局側が
まとめたところで12月15日を最終回とし、それぞれの検討会からの意見を集約する形で
17日にこの報告書が公表された。

報道発表において厚生労働省は報告書のポイントとして以下の点をあげた。

1 ストレスチェックの実施について
○ ストレスチェックの実施者となれる者は、医師、保健師のほか、一定の研修を受けた
看護師、精神保健福祉士とする。
○ ストレスチェックの調査票は、「仕事のストレス要因」、「心身のストレス反応」及び
「周囲のサポート」の3領域を
全て含むものとする。具体的な項目数や内容は、事業者自ら選定可能だが、国が推奨する
調査票は「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」とする。
2 集団分析の努力義務化
○ 職場の一定規模の集団(部、課など)ごとのストレス状況を分析し、その結果を踏まえて
職場環境を改善することを努力義務とする。
3 労働者に対する不利益取扱いの防止について
ストレスチェックを受けない者、事業者への結果提供に同意しない者、面接指導を
申し出ない者に対する不利益取扱いや、面接指導の結果を理由とした解雇、雇止め、
退職勧奨、不当な配転・職位変更等を禁止する。

20頁の報告書の内容はここには掲載しないが、上記HPなどで確認してもらいたい。
この制度でまず戸惑うのではないかと思われるのは、「実施者」についてではないかと思う。
事業者は労働者に対して制度に元づく検査を行う義務があるが、ストレスチェック
「実施者」は「医師、保健師その他の厚労省令で定める者」なのである。多くの場合、
産業医がこの「実施者」となるだろう。
事業者の役割は、「実施者」にストレスチェックを依頼し、その結果により希望者に
医師の面接指導を受けさせ、面接指導の結果から講ずべき措置について医師の意見を聴く、
集団分析結果を受けて職場改善へ努力する、ストレスチェック実施を行政に報告すること
である。
ストレスチェックの結果については、ポイント3の不利益取り扱いを防止するため、
実施者が個人結果を評価し、面接指導の対象者の選定を行い、事業者へは集団分析結果のみを
提供する。
とすると、事業者が行う最も重要な役割は、集団分析による職場改善で、制度の目的
ともいえる一次予防に当たるものだが、それは「努力義務」とされてしまった。
報告書には「集団分析の手法が十分に確立・周知されている状況になく、まずは努力義務
として周知を図る」とされている。事業者から行政への報告の内容も、
ストレスチェックの実施時期、②対象人数、③受検人数、④面接指導の実施人数の4項目で
職場改善については何もない。
また、報告書には「派遣労働者の取り扱いについて」という項目が設けられ、
個人のストレスチェックや面接指導は派遣元が実施義務を負うが、集団分析に基づく
職場改善の努力義務は派遣先にある。
派遣元が派遣先と連携する必要がある。

報告書はストレスチェック項目の内容から、上記したような実施方法、面接指導・集団分析
職場改善、不利益取り扱いの防止など詳細な内容で、一読ではとても把握できない
複雑なものとなっている。
「実施者」となるべき産業医にとっても、これまでと違った役割が課される。
ストレスチェックの評価、面接指導、職場改善への提言、個人結果の5年間の保存まで
含まれ、研修などが必要であり、すぐに実施するというわけには行かないだろう。
ほとんどの企業が、これまでもメンタルヘルス対策などを請け負ってきた業者のような
外部機関へ依頼することになると考えられる。

最後にもうひとつ問題を指摘するとすれば、従業員50人以下の小規模な企業で、一次予防に
つなげられるような対策がとれるかどうかということである。ストレスチェックだけでは
職場改善につなげるのは難しい制度である。
中小企業での集団分析はほとんど期待できない。やはり中小企業対策としては、
アクションチェックリストなどを活用した職場改善活動の方が、効果を発揮すると
考えられる。だが中小企業に今回の複雑なストレスチェック制度と合わせて、
アクションチェックリストによる対策などを実施するといったことが可能とは
あまり思えない。
小規模な企業でストレスチェックのみを行えば、やはり、労働者個人の不利益に
つながる可能性が高く、省令でこれら取り扱いを禁じたとしても現実問題、
ほんとうにそのようなことが起こらない保証はない。

すでに2月16日に開催される労働政策審議会安全衛生分科会で「労働安全衛生法の一部を
改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案要綱について」の
諮問が予定されている。
報告書を元に厚生労働省は、省令や指針などを策定し、この「心理的な負荷の程度を
把握するための検査等」の実施義務をスタートさせることになる。
一次予防目的と言いながら、一次予防を義務づけない矛盾したやっかいな制度ではないかと
思うが、全国労働安全衛生センター連絡会議による厚生労働省交渉も予定されており、
少しでも制度改善に努めたい。