ストレスチェック制度いよいよ その2

引き続きストレスチェック制度についてです。
「関西労災職業病」2015年5月号から


出揃ったストレスチェック制度の指針とマニュアル
職場改善実現の制度にできるか?

一次予防が目的

12月1日より、いよいよストレスチェックの実施が義務付けられる。
昨年6月に労働安全衛生法改正案が可決し、そのもっとも大きな改正として新設された
第66条の10(心理的な負担の程度を把握するための検査等)が、
1年以上の準備期間を経て施行されるからである。
さかのぼれば、2010年4月に当時の長妻厚生労働大臣が、「健康診断でうつ病のスクリーニングを義務づける」
という趣旨の発言を記者会見で行ったことにはじまる。唐突だったこの発言は、
それでも同年9月に公表された「メンタルヘルス対策検討会」の報告書に引き継がれた。
さすがに「うつ病のスクリーニング」などという明け透けに問題視されるような内容は
なくなったが、精神疾患の“早期発見”を目的の一つとする新たな検査創設が
改正内容となり、結局翌2011年10月に国会に上程されることとなった。
しかし安全衛生対策に関与する各方面から問題点の指摘が絶えなかったこの改正案は、
継続審議扱いが続いてたなざらしとなり、ようやく翌年の8月に趣旨説明が行われたものの、
審議は行われず、結局、その12月の国会解散で廃案となった。
しかし厚生労働省はその後、制度の中身を検討し直し、「メンタルヘルス不調を未然に
防止する一次予防を目的とするもの」としてストレスチェック制度を新たな改正法案として
準備、2014年1月に労働政策審議会に諮問する。この段階では、全ての事業場と労働者に
ストレスチェックを義務付けるとする内容だったが、国会上程前の2月19日の
自民党厚生労働部会において、管理や悪用への懸念があるという反対意見が出されることと
なる。その結果、義務付け対象を産業医選任義務がある50人以上事業場にし、50人未満は
努力義務とすることと、労働者への義務付けをなくして希望者のみにするという大幅な
修正が行われた。そして国会を全会一致で可決、6月26日に公布の運びとなったわけだ。

個人情報の扱いが分かり難さの原因?

それにしても、労働者のストレス状況をチェックすることを制度化し、職場改善に結びつける
というのは、なかなか難しい。素人目にも容易に想像がつく。そのことは、出来上がった
制度内容をみてもよくわかる。というより、ややこしさ、分かり難さがはっきりしている。
法律成立後になってから、「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」
ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会」「ストレスチェック制度
関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会」という3つの検討会が精力的に
開催され、昨年末に報告書をまとめた。
そして、この4月、5月には「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度
実施マニュアル」と「Q&A」、それに制度全体を把握するための「説明会資料」も
HP上で公開された。とくに「マニュアル」に至っては171頁と分厚いものになっている。
なんといってもこの制度の分かり難さの原因になっているのは、ストレスチェック
結果情報の扱いである。事業者はストレスチェック実施の義務を負うが、その実施者は
事業者とは別の者であり、その情報を労働者の同意なく事業者に知らせてはならない。
職場のストレスについて労働者個人がどのように感じているかという情報を扱うだけに、
当然のことといえるのだが、特に運用上の問題となりそうなのが、事業場内の
産業保健スタッフの関わり方である。
たとえば産業医は、事業場の状況を詳しく知り、専門家として労働衛生対策について
事業者に助言や勧告を行う立場にあり、事業者とは密接なかかわりを持つのが普通だ。
事業場のストレスチェックを実施するときに、外部機関に委託するのではなく、
事情をよくわかっている産業医が実施者になったり、共同実施者になるのは自然なことだが、
このとき産業医は労働者個人のストレスチェックの結果について事業者に
漏らしてはならない。
しかし、高ストレス状態にあり医師による面接指導の申し出を勧奨し、その労働者が
申し出たときは、事業者に情報が伝わることとなり、面接指導の結果についても事業者に
伝え、適切な措置を取るということになる。このあたりの運用上で生じる問題は、
12月以降に顕在化する可能性はありそうだ。


衛生委員会労働組合推薦委員の役割が大事

ストレスチェック制度の目的は、5月1日に公表された指針において、次のように記されている。
「特にメンタルヘルス不調の未然防止の段階である一次予防を強化するため、定期的に
労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの
状況について気付きを促し、個々の労働者のストレスを低減させるとともに、
検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、
職場環境の改善につなげることで、ストレスの要因そのものを低減するよう努めることを
事業者に求めるものである。さらにその中で、ストレスの高い者を早期に発見し、
医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを
目的としている。」
この記述からわかるように、目的の最も一義的なものは、ストレスを低減させて職場環境の
改善につなげるということである。
したがって、この指針で明らかにされている手順では、事業者による「基本方針の表明」、
ストレスチェック及び面接指導」、そして「集団ごとの集計・分析」まで、
衛生委員会における調査審議が果たす役割は大きなものとなる。
ストレスチェックの質問項目、ストレスの程度の評価方法というようなストレスチェック
中身そのものに関することはもちろんのこと、個人情報の取り扱いや検査を希望しない
労働者等への不利益取扱いがないかどうか、また、面接指導による措置状況など、
審議事項となる問題は相当なものとなりそうだ。
ということは、衛生委員会を構成する労働組合推薦の委員がどのような働きができるのかは
大きな問題ということになるだろう。
もちろん事業場側の事務局が適切な実務遂行を行うことが大切なのはいうまでもないが、
受けることとなる労働者側に立ったスタッフがどのように職場の改善につなげる結果を
導けるものにできるかのカギを握っているということができそうだ。