精神障害の新認定基準の運用は?

昨年12月に精神疾患の労災認定基準が改定され、
新認定基準での業務上外の判断が行われています。
果たして新認定基準で認定件数が増加するのか、
改定の目的であった迅速化はされるのか、
まだまだ未知数です。
じつのところ、来年に厚生労働省が今年度の認定状況を発表するまで
詳しくはわからないでしょう。
しかし私たちのネットワークでは情報を持ち寄るように
呼びかけています。
で、ニュース記事にも眼を光らせているわけですが、
それで見つけた記事をご紹介します。


過労でうつ病、自殺を労災認定 大田労基署
2012/9/1 1:59 日経

コンピューターのシステム開発などを手がけるピーエスシー(東京都港区)の
システムエンジニアの男性社員(当時29)が2011年に自殺したのは
長時間労働によるうつ病が原因」として、大田労働基準監督署が労災認定したことが
31日分かった。遺族側の弁護士が明らかにした。認定は7月12日付。
 ピーエスシーは「内容について把握しておらず、コメントは差し控えたい」としている。
 男性は06年に入社し、システムエンジニアとして大田区内で勤務。
プロジェクトリーダーに就いた10年11月ごろから労働時間が急増し、
11年6月に自殺した。同12月に遺族が労災申請した。
 弁護士によると、労基署は、男性が11年5月下旬にうつ病を発症したと判断。
発症4カ月前の1カ月の残業時間が、前月の倍以上の136時間に急増し、
2週間以上連続して勤務していたことなどから労災と認定した。
 弁護士は「ここ数年、若いシステムエンジニア過労自殺が後を絶たない。
過酷な労務環境の改善が求められる」と述べた。


判断で述べられている
「残業時間が前月の倍以上に増加した」
「2週間以上連続して勤務していた」
は、新認定基準で明文化された項目です。
そこでツテをたどって担当した弁護士事務所に問い合わせしました。
それで記者発表資料をいただくことが出来ましたが、
意外なことがわかりました。
この記事ではまったく触れていない点です。

労働基準監督署がカードキーの入退室記録などをもとに認定した労働時間は
発症前1ヶ月41時間、2ヶ月70時間、3ヶ月82時間、
4ヶ月136時間、5ヶ月9時間、6ヵ月69時間でした。
5ヶ月前の9時間から4ヶ月前の136時間への増加をもって
心理的負荷は、「15.仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」で、
時間外が倍以上に増加し、100時間以上ということで「強」
さらに「17.2週間以上連続勤務」を直前に行なっており、
総合判断「強」と決定しています。
しかし、弁護士によると記録にない時間外労働時間が長時間ありました。
弁護士の推計では、発症前1ヶ月238時間、2ヶ月107時間、3ヶ月149時間、
4ヶ月204時間、5ヶ月173時間でした。
これが実際の労働時間であったとすると、
「特別な出来事」の「発症直前の1か月におおむね160時間の時間外労働を行った」
にあたります。
実態とこれほどのギャップがあったことは驚きです。
5ヶ月前では、173時間のうち9時間しか認定されていません。
実際の労働時間の証明が難しいケースがたくさんあります。

もう1件、こちらは私たち安全センターであつかったケースで、
行政訴訟は過労死事件を多く手がけてこられた松丸・生越弁護士が
代理人をつとめてくださいました。


石綿肺自殺は「労災」 遺族補償不支給取り消し 岡山地裁
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120926/trl12092614060006-n1.htm
2012.9.26 産経

 石綿肺と診断された夫が闘病中にうつ病になって自殺したのは労災にあたるとして、
中国地方の60代の女性が起こした訴訟の判決で、岡山地裁は26日、請求通り、
遺族補償給付の不支給処分を取り消す判決を言い渡した。
 判決理由で古田孝夫裁判長は「精神障害の発病と、石綿肺を発病させた業務との間に、
相当因果関係を認めることができる」と指摘した。
 訴状などによると、女性の夫は1961〜70年まで全国の工事現場で
石綿アスベスト)吹き付け作業に従事し、87年に石綿肺と診断された。
闘病中だった2002年にうつ病と診断。60代だった07年5月に自殺した。
 女性は同年、遺族補償給付などを倉敷労働基準監督署に申請したが、認められなかった。
審査請求や再審査請求も棄却され、10年2月に岡山地裁に提訴した。


労災で療養中に発症したうつ病による自殺のケースです。
石綿肺は時間とともに確実に進行する病気で、
治療で治ることはありません。
その石綿肺を長く患い、着実に悪化している状況の中、
かつての同僚たちが次々に肺の疾患でなくなっていく精神的負荷は
いかほどのものだったでしょうか。
少し想像力があればわかるこんなことを、
労災の判断指針(旧認定基準)は
うつ病発症前に、急激な悪化などが見られないということから
不支給としていました。
新認定基準ではどうでしょう?
このケースは裁判官はこまかな認定基準にこだわらず、
この状況は心理的負荷は「強」であるとして業務との相当因果関係を
認めましたが、認定基準でこのケースにあたる項目を探すと、
「特別な出来事」の
「生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す
業務上の病気やケガをした(業務上の傷病により6ヶ月を超えて療養中に
症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)」になります。
この項目では直前に急変したり極度の苦痛を伴う出来事が必要で、
解釈によっては労災認定が可能なのですが、これまでの指針では
生命が危ない状態になるような悪化がないとほとんど認められてきていません。
労災で療養中の方が、闘病を苦に残念ながらうつ病などを発症して
自殺するケースは、石綿肺に限らずこれまでもたくさんあったようです。
しかし簡単には労災と認められてきていませんので、
この判決をきっかけにより広く、労災と判断されるようになればと思います。

さて、いろいろ思うところはありますが、
このような認定事例がこれからどんどん増えればいいと思います。
そこで、以下のお歌など、どうぞ。
駅前で、かわいらしい娘さんたちが踊ってるのに遭遇して、
思わずCDを購入してしまいました。


天晴レ天女ズで「カムカムハッピー」