時効凍結は画期的

またまた、マイナーな話題ですが…。
以下のような記事が毎日新聞に掲載されました。


<胆管がん>厚労省が労災時効凍結 全国労働局に指示
毎日新聞 7月13日(金)2時30分配信

胆管がんの発症者が全国の印刷会社で相次いで発覚した問題で、
厚生労働省が全国の労働局に対し、胆管がんで労災認定(補償)の申請があれば、
時効の判断をしないよう指示したことが12日、同省への取材で分かった。
死後5年の遺族補償のほか、実施日から2年の休業や治療(療養)補償などについて、
現行の時効の解釈を事実上、凍結したことを意味する。
従来より大きく踏み出し、弾力的に運用する可能性を示したかたちだ。
同省によると、47都道府県にある労働局に対し、
「胆管がんでは時効の起算点が変更される可能性がある」と通知、
従来では時効とされる申請でも「門前払い」しないよう指示した。
労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付の時効は通常、死亡の翌日から起算。
5年が経過すれば受給権を失う。また、休業、療養、葬祭費などの補償は、
それらの翌日から2年が時効とされる。
しかし、今回の問題で患者側は「落ち度なく労災に気付かず
権利を行使できなかったのに、時効は補償を不当に奪う」と主張。
同省自体も、印刷職場で胆管がんが発症しやすいことを知らなかったと認めていた。
今回、同省は時効の起算点について、民法では「権利を行使できる時」
としていることを重視。労災保険法では起算点が明記されていないため、
専門家による同省の「胆管がんの検討会」が、業務と胆管がん発症が関連すると
結論付けた時点を起点とすることを検討しているという。
毎日新聞の取材では、色見本をつくる校正などが業務の大阪市の印刷会社の
発症者12人のうち、5人(いずれも死亡)は現行の時効の考え方では、
全ての補償を受けられない。残り7人(うち死者2人)も、
現在療養中の1人を除き、休業、療養、葬祭費など何らかの受給権を失っている。
現在、この1人を含む6人が労災申請している。【大島秀利】


この「時効」という言葉はあまり皆さんにはなじみがなく、
刑事ドラマや事件報道で目にしたことがあるくらいでしょうか。
実は、犯罪にたいする刑罰の関係のみでなく、
法的な権利を行使するに当たって、各個人にも関わってくる制度です。
身近なところでは、例えば賃金未払いにあい請求しようという場合、
請求権はやはり2年で時効になります。
長年勤めた会社をリストラなどで退職することになり、
それなら、とこれまでのサービス残業分を会社に請求するという方もあるのですが、
最長2年までしかさかのぼって請求することができません。

労災保険の請求権にも時効があり、遺族への年金一時金は5年、
療養費(治療費)・休業補償の請求は2年です。
その期間内に労災保険に請求しないと、請求権がなくなることになります。
で、今回の報道ですが、この胆管がんの発症者の場合、
発症と仕事との因果関係がわからずに請求期間が過ぎてしまったけれども、
この件に関しては、専門検討会が胆管がんと業務との関連を認めた時点を
時効のの起算点とする可能性がでてきたということです。
これは画期的なことです。

これまでも時効の問題に阻まれて労災請求できないというケースはありました。
代表的なのは、アスベスト被害者の労災時効問題です。
このときは、中皮腫や肺がんの発症について30〜50年前の仕事上の
アスベスト曝露が原因という可能性あるということが
まだほとんど知られておらず、数千人単位で時効になった方がでていました。
そのため厚生労働省は、アスベスト被害に限って
救済法を作って時効事案も救済するという方法をとりました。
しかし、時効はこのような特別な病気のケースだけの問題ではありません。
今、これを読んでいる方の何人が労災請求に時効があるということを
ご存知でしたか?
私が働くような労災職業病センターでは
相談者の方が紆余曲折を経てようやく相談にこじつけたときには
すでに休業補償や療養費が時効にかかっているというような場合も
多々あります。
また、労災保険制度自体をよく分かっておらずに、
時効になっていたケースもあります。
時効の問題は、この胆管がんに限った話ではありません。
胆管がんを特別扱いし、時効の起算点を因果関係が分かった時点としても、
将来またあらたに別の病気で同じような問題が発生する可能性は大いにあります。
厚生労働省がより広く、この問題を検討してくれることを望みます。