努力信仰の果て

居酒屋チェーン店「和民」の新入社員の自殺が労災認定されたニュースについて
ネットで話題になっています。


ワタミ従業員自殺:ストレス原因と労災認定
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20120222k0000m040081000c.html

 居酒屋チェーン運営「ワタミフードサービス」(東京都大田区)の従業員だった
森美菜さん(当時26歳)が08年に自殺し、神奈川労働者災害補償保険審査官が
長時間労働によるストレスが原因として労災認定していたことが21日、分かった。
遺族代理人の弁護士が明らかにした。

 森さんは08年4月に入社し神奈川県横須賀市内の店舗に配属されたが、
同年6月に同市内の自宅近くのマンションから飛び降り自殺した。
決定書によると、深夜の調理担当の森さんは、抑うつ状態となる5月中旬まで
1カ月の時間外労働が約140時間に上り、過労で自殺したと認めた。

 遺族は横須賀労働基準監督署に労災申請したが「ストレスが大きかったと言えない」と
棄却され、同審査官に不服を申し立てていた。
ワタミ広報グループは「内容を把握しておらずコメントを差し控える」
と話している。【山下俊輔】

毎日新聞 2012年2月21日 21時15分(最終更新 2月22日 0時25分)


この件について、ワタミ会長の渡邉美樹氏がtwitter
労務管理できていなかった認識はない」などと発信しました。
過去、都知事選に立候補したこと、大阪市長の橋下氏との関係でも
注目されていた人物の発言であり、ネット上で意見が飛び交っています。

昨年のシンポジウムで松丸弁護士に講演いただいたときの資料に、
このワタミの36協定の内容というものがあります。
H20年度、時間外労働時間の特別条項は月120時間、
年間950時間となっています。
労災認定基準の過労死ラインをはるかに超える協定です。
そして実際に上記のケースは月140時間以上働いていたということです。
すでにこの協定を作った時点で、労務管理は破綻しています。
そして、このような協定を結んでいる企業はワタミのみではなく、多数存在します。

渡邉氏はまた、以前、別のインタビューの際に
無理なことでも一週間続ければ無理でなくなる、という趣旨のことを発言しています。
おそらく、自身が努力してやってきたことから、人一倍がむしゃらにやれば成功する、
あるいは、無理をしてでもやることがすばらしい、というような考えをもたれているのではないでしょうか。
なにか、一種の信仰のようにも思えます。
自分が丈夫な身体を持ち、運にも恵まれてここまでこられたので、
出来ないのは怠慢、本人の脆弱ゆえというような考え方が見え隠れしています。
ご自身がそうされることについては何も言いませんが、
彼は経営者です。
多くの人を雇用する組織のトップです。
それは多くの人の命や生活を預かっていることでもあります。
そのことに、ぜひ思い至って欲しいです。
審査請求で労災不支給処分が取り消されたと聞いて、
最初に口にしなければいけなかったのは、まず遺族への謝罪の言葉ではないでしょうか。
そして、労務管理をしっかり見直し、
2度とこのようなことが起こらないようにしてほしいです。

渡邉氏のような、努力信仰と言うか、強いものに対する信仰はあらゆるところで見られます。
たとえば、スポーツの世界。
学校、そして企業の中でも。
まず学校で、出来ない者は人一倍努力しろ、と押しつけられます。
自主的にやることよりも、とにかく強制されることに慣らされます。
そして企業に入って、過大な要求を押し付けられても黙々と従い、
できなければ努力が足りないと言われ、
身体を壊すまで、あるいは死んでしまうまで働いてしまうのです。
努力は自分が望んで自分のために行うもの、
決して人から強制されるものではないのです。

ワタミだけが特別ではありません。
あなたの働く環境はどうですか?
36協定はどうなっているかご存知ですか?
労働者が声を上げるのは難しいです。
でも誰も死ぬまで働きたいとは思っていません。
できることを考えましょう。

明日あさっては全国一斉労災ホットラインです。

フリーダイヤル 0120−631202
2月24−25日10時から18時

各地域の労災職業病センターが対応します。
主催は全国労働安全衛生センター連絡会議です。